『ナッツ&ミルク』ファミコン初のサードパーティ参入!かわいらしい見た目に隠された高難度アクション

タイトル ナッツ&ミルク(NUTS & MILK)
発売日 1984年7月20日
発売元 ハドソン
当時の定価 3,800円
ジャンル アクションパズル

1984年7月20日、『ロードランナー』と同時に発売された本作は、日本の家庭用ゲーム機史上において、任天堂以外のメーカー(サードパーティ)が初めて制作・販売した記念碑的なソフトです。ハドソンという北の大地から現れた雄が、ファミコンの覇権を決定づける「多様性」の扉をこじ開けた瞬間でした。
同時発売の『ロードランナー』が硬派なアクションパズルだったのに対し、本作はパステルカラーの柔らかな色彩と丸みを帯びたキャラクターを採用。当時の主要層だった男児だけでなく、女児をもターゲットに据えた戦略的なデザインが施されていました。しかし、その愛らしい外見に騙されてはいけません。本作の核にあるのは、一瞬の油断も許されないシビアなジャンプアクションでした。

ハドソンが挑んだ「任天堂の作法」へのオマージュ

本作の画面構成やタイトルのデザインを眺めると、どこか『ドンキーコング』や『マリオブラザーズ』に近い「安心感」を覚えます。これは、ハドソンがファミコン参入にあたり、任天堂が築き上げた操作性や画面レイアウトの黄金律を徹底的に研究し、それを忠実に守ろうとした結果です。
実際、ロムデータの中にはゲーム中には決して表示されない「Nintendo」のロゴが隠されているという有名な逸話があります。これは当時の開発機材の名残とも、任天堂への敬意の表れとも言われていますが、黎明期のサードパーティがいかに慎重に、かつ真摯にこの新しいプラットフォームに向き合っていたかを象徴するエピソードと言えるでしょう。

ミルクとナッツの関係と逆転の難易度

タイトルの『ナッツ&ミルク』という響きから、二人で協力するゲームだと勘違いした子供たちも少なくありませんでした。しかし、実際のナッツは主人公「ミルク」を執拗に追い回すお邪魔キャラクター。ミルクは恋人の「ヨーグル」が待つ家へ帰るため、ステージ内のフルーツを集めなければなりません。
本作を「見た目以上に難しい」と言わしめる最大の要因は、その独特のジャンプ挙動にあります。落下速度が速く、空中で制御できる範囲も限られているため、ちょっとした操作ミスがそのまま水溜りへの落下に繋がります。特にスプリング(ジャンプ台)を使った大ジャンプは、ボタンを押すタイミングが非常にシビアで、これをマスターできるかどうかが中盤以降のステージ攻略の生命線となりました。

PC版からファミコン版への大胆な「再構築」

実は『ナッツ&ミルク』には、前年に発売されたパソコン版が存在します。しかし、パソコン版は「見下ろし型」の画面構成で、フルーツを集めるドットイートに近いゲーム性でした。ハドソンはこれをファミコンに移植する際、あえて『ロードランナー』のような「サイドビュー(横視点)」へとフルリメイクを敢行しました。
この判断が、本作に「重力」という概念をもたらし、アクションとしての緊張感を生み出しました。もしパソコン版のまま移植されていたら、これほどのロングセラーにはなっていなかったかもしれません。ハードウェアの特性を理解し、お茶の間のテレビで最も映える「形」へと再構築するハドソンの開発力の高さが、ここでも発揮されています。

エディットモードが教えてくれた「自分だけの面」

『ロードランナー』同様、本作にも自分の手でステージを作成できるエディットモードが搭載されていました。ミルクがヨーグルの家まで最短距離で辿り着ける「超接待ステージ」を作る者もいれば、ナッツと火の玉をこれでもかと詰め込んだ「地獄のステージ」を友人に押し付ける者もいました。
この機能により、全50面をクリアした後も遊びは無限に広がりました。初期のファミコンソフトにこうした「創作」の余地を残したことは、単なる消費財としてのゲームを、ユーザーと共に育む「文化」へと押し上げる重要な役割を果たしたのです。

当時の読者評価:『大技林』が映し出す愛され方の記録

ハドソンの第一弾として、当時のプレイヤーたちは本作をどのように位置づけていたのか。アンケート結果を見てみましょう。

キャラクタ 音楽 お買い得 操作性 熱中度 オリジナル 合計
3.4 3.1 3.1 3.2 3.2 3.2 19.2

合計点は19.2点。すべての項目において3点台という極めて高いバランスを保っています。特筆すべきは、当時の男児向けアクションゲームの中では珍しく「キャラクタ」の項目が高評価を得ている点です。ドット絵で表現されたミルクの気絶モーションや、クリア後のハートに溢れたデモシーンが、殺伐としたゲーム界に癒やしを与えていたことが数字に現れています。
また、難易度の高いジャンプを要求されながらも「操作性」が3.2点と安定しているのは、理不尽なミスではなく、あくまでプレイヤーの腕次第で突破できる絶妙なバランス調整があった証拠でもあります。

パズルアクションの「彩り」

『ナッツ&ミルク』は、ファミコンに「サードパーティの参入」という革命をもたらした、最も優しく、最も熱い一本です。恋人のために奮闘するミルクの姿は、後の『バイナリィランド』など、ハドソンが誇る名作アクションへとそのDNAを継承していきました。
パステルカラーの画面に、リボンのついた家、そして絶妙にタイミングの難しいジャンプ。あの日、コントローラーを握ってヨーグルに会えた瞬間の、あの何とも言えない幸福感。私たちが今、多様なメーカーが競い合う豊かなゲーム市場を当たり前のように享受しているその源流には、この小さなピンク色のキャラクターが残した大きな一歩があったのです。