【回顧録】「攻略本」が最強の娯楽読み物だった時代――ネット以前、少年たちは鈍器のような紙束に夢を見ていた

今、ゲームの攻略情報を調べるのにかかる時間は数秒だ。
スマホを取り出し、タイトル名と「攻略」で検索すれば、企業系Wikiから個人ブログまで、ありとあらゆるデータが即座に手に入る。効率的で、正確で、そして少しだけ味気ない。

だが、かつてゲーム攻略とは「読書」だった。
1980年代から2000年代初頭にかけて、攻略本は単なるデータ集ではなく、少年少女にとって最高のエンターテインメントだった。学校の休み時間、ボロボロになるまで読み込んだ「ケイブンシャの大百科」。発売日に書店へ走り、小遣いを叩いて買った「アルティマニア」の圧倒的な重量感。

本稿では、インターネットが普及する前夜、紙とインクの匂いが漂う「攻略本黄金時代」について、あの頃の熱狂と共に振り返る。

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「ケイブンシャの大百科」と「嘘テク」の洗礼

ファミコン全盛期、攻略本はまだ洗練されていなかった。
辞書のような厚みの「ケイブンシャの大百科」シリーズは、攻略情報だけでなく、アニメ、特撮、プロ野球まで網羅する情報のるつぼだった。ゲーム画面のキャプチャ写真は粗く、ブラウン管を直接撮影したような滲みがあったが、それが逆に想像力を掻き立てた。

「嘘テク」という許された罪

当時の攻略文化を語る上で外せないのが、雑誌『ファミリーコンピュータMagazine(ファミマガ)』の名物コーナー「ウソテク」だ。
「水晶を持って特定の場所に行くと隠しボスが出る」「コントローラーの特定のボタンを同時押しすると無敵になる」。
誌面には、読者を騙すための精巧な合成写真と共に、堂々と嘘の裏技が掲載されていた。

現代なら炎上案件だが、当時はこれが「遊び心」として許容されていた。
友人の家で必死にコマンドを入力し、「出ないじゃん!」「騙された!」と笑い合う。攻略情報はただの正解データではなく、コミュニケーションの種だったのだ。

「大丈夫? ファミ通の攻略本だよ?」の衝撃

スーパーファミコンからプレイステーションへと時代が移り変わる中で、攻略本にも「ブランド」が生まれ始めた。
中でもアスキー(現KADOKAWA)が発行する「ファミ通」ブランドの攻略本は、独特の存在感を放っていた。

「大丈夫? ファミ通の攻略本だよ?」という自虐的なキャッチコピーがCMで流れたことを覚えているだろうか。
当時の攻略本には、進行度の制限(ネタバレ防止のための「ここまでしか載せません」という壁)や、誤植、あるいはマップの見づらさといった愛すべき欠陥が含まれていることがあった。
それでも我々は買った。なぜなら、そこには編集者の主観バリバリの「プレイ日記」や、開発者のディープなインタビュー、そして描き下ろしのイラストが満載だったからだ。

革命児「アルティマニア」の登場

攻略本の歴史を変えた「特異点」を挙げるとすれば、間違いなく1999年の『ファイナルファンタジーVIII アルティマニア』だろう。
スクウェア(現スクウェア・エニックス)監修のもと、デジキューブから出版されたこの書籍は、それまでの常識を覆す「鈍器」だった。

「完全攻略」という名の暴力的な情報量

数百ページに及ぶ厚み、微に入り細を穿つデータ量、解析レベルのダメージ計算式。
「隠し要素は自分の目で確かめよう」などという甘えは一切なく、ゲーム内の全ての事象を白日の下に晒すその姿勢は、まさに究極(アルティメット)だった。

特に『FF』シリーズや『サガ』シリーズのアルティマニアは、読み物としても一級品だった。
設定資料集を兼ねた世界観の解説や、開発スタッフによる座談会は、ゲームクリア後の余韻に浸るための最高のアフターケアだった。
ベッドの中で分厚い本を開き、自分が旅した世界の裏側を知る。それは、ゲームプレイそのものと同じくらい幸福な時間だった。

「最速攻略本」という名の罠

一方で、苦い思い出もある。
ゲームソフトと同時、あるいは直後に発売される「最速攻略本」だ。Vジャンプブックスなどが代表的だが、これらはあくまで「序盤~中盤までのガイド」に過ぎない。

「この先の戦いは君自身の目で確かめてくれ!」
ラストダンジョンの地図すら載っていないページを見て、何度枕を濡らしたことか。
しかし、インターネットがない時代、発売直後の数日間を生き抜くためには、この不完全な地図さえも貴重な水だった。

紙の攻略本が失われたもの、遺したもの

2010年代以降、スマートフォンの普及と共に、紙の攻略本は急速に姿を消していった。
Wikiの更新速度と検索性には、物理書籍はどうあがいても勝てない。誤植があれば即座に修正され、動画付きで解説される現代の環境は、プレイヤーにとって間違いなく「快適」だ。

しかし、我々は何か大事なものを失ってはいないだろうか。

本棚に並んだ攻略本の背表紙を見るだけで、そのゲームを遊んだ季節や、当時の部屋の空気まで思い出せるあの感覚。
ボロボロになったページの角、重要なアイテムの場所に書き込んだ赤ペンの跡。
それらは単なる「攻略データ」ではなく、自分だけの「冒険の記録」だった。

デジタル全盛の今だからこそ

今でも、超大作RPGや複雑なシミュレーションゲームが出ると、稀に分厚い攻略本が出版されることがある。
実用性で言えばスマホで十分だ。それでも書店でそれを手に取り、重みを感じた瞬間、得も言われぬ所有欲に駆られることがある。

攻略本は、ゲームという形のない体験を、物理的に所有するためのアイテムだったのかもしれない。
もし実家の押し入れに眠っている攻略本があるなら、捨てずに一度開いてみてほしい。そこには、レベル99まで育て上げたデータよりも鮮明な、あの頃のあなたの情熱が保存されているはずだ。

(ゲームジャーナリスト・松沢慎太郎)

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