かつてゲーム実況は「好きなゲームを遊びながら稼げる夢の仕事」だった。しかしいま、多くの実況者が2027年を目処に廃業を考える理由が続々と浮上している。なぜその声が現実味を帯びてきたのか。ここでは、実況文化の成り立ちを振り返りつつ、芸能人参入、広告単価の低迷、人気タイトルの分散といった構造要因を整理し、読み解いていきたい。
黄金期の成立と“誰もがスターになれる時代”
2000年代後半から、YouTubeやニコニコ動画、そしてTwitchの普及は“家庭のゲームプレイ”を世界に届けるプラットフォームを生み出した。初期は広告単価が高く、実況動画1本でも数万円の収益が出た時代もあった。視聴数と収益が明確に比例し、チャンネルを続けるインセンティブが強かった。さらに、ニッチゲーマーでも「人気タイトルの攻略」「新作の初見実況」で瞬時に注目を集めることができ、YouTuberとして成功しやすい土壌が存在したのだ。
芸能人の参入がもたらした変化
2010年代後半以降、狩野英孝など芸能人の実況参入が相次ぎ、視聴者の注目は“知名度”に大きく偏っていった。芸能人が持つ圧倒的な認知度とメディア露出力は、これまでゲーム実況だけで成り立っていた空間に新しい基準を持ち込んだ。これにより、プロの実況者と芸能人との境界線が薄まり、視聴者が消費するコンテンツの軸が変わったと考えられる。既存実況者の立場は相対的に弱まり、競争が激化したのは間違いないだろう。
広告単価の急激な低下
実況者を直撃しているのが、広告収益の低迷だ。かつて1再生あたりの広告単価は比較的高水準だったが、2020年代に入り動画数の増加とアルゴリズムの変更で急激に下落した。YouTube全体の広告売上は伸び続けている一方で、個々の実況者への還元は減少傾向にある。さらに、ショート動画が優遇される仕組みとなったことで、従来の長尺実況動画が不利になるという構造的問題も浮かび上がっている。結果として、かつて安定収入を得られていた実況者でも、月収が半減以下になる例が目立つようになった。
人気ゲームの細分化と視聴分散
2010年代は「マインクラフト」「モンスターハンター」「フォートナイト」といったタイトルに視聴が集中していた。しかし現在は、ジャンルの多様化とゲームリリースの加速により、視聴者の関心は細分化している。一つのタイトルに依存して再生数を稼いでいた実況者にとって、人気の分散は死活問題だ。各ゲームの寿命も短期化しており、ひとつの作品で長期にわたって再生数を稼ぎ続けることは難しくなっている。
実況者たちの切実な声
実際に多くの実況者が「視聴数は伸びているのに収益は減る」「生活を支えるには副業をせざるを得ない」といった声を漏らしている。かつては“実況一本”で生計を立てることが可能だったが、現在では複数の収益源を持たないと安定しないのが現実だ。スポンサーシップや物販、メンバーシップ収益を組み合わせて辛うじて成り立つケースもあるが、それができるのは一握りに限られている。
2027年までに廃業が相次ぐ理由
以上を総合すると、ゲーム実況者が「2027年までに廃業する」と言われる背景には、複数の構造要因が重なっている。芸能人参入による競争激化、広告収益の減少、視聴者の細分化、ショート動画の台頭。この四つの要因が重なれば、実況を本業として続ける難易度は急上昇する。もちろん一部のトップ実況者は生き残るだろうが、大多数は副業化、あるいは撤退を余儀なくされるのではないだろうか。
2027年という区切りは象徴的だ。プラットフォームのアルゴリズムがさらに短尺重視へ移行し、広告単価も戻る見込みが薄い。人気ゲームのライフサイクル短期化も続くだろう。もはや“実況一本”で生活を成り立たせるのは、ほとんど不可能になると考えられる。ゲーム実況の次の姿を模索する時期は、すでに始まっているのかもしれない。
(文責 ゲームジャーナリスト・松沢慎太郎)