『夢工場ドキドキパニック』ショパン猪狩の笛で大根が生える、あの奇妙な衝動

タイトル 夢工場ドキドキパニック
発売日 1987年7月10日
発売元 任天堂
当時の定価 2,980円
ジャンル アクション

そういえば、あの頃、テレビのCMでショパン猪狩が笛を吹くと、なぜか壺から大根が生えてくる、あの奇妙なゲームがあった。『夢工場ドキドキパニック』だ。フジテレビの一大イベントのタイアップで、パッケージにはマリオとイマジンが手を組んだシールが入っていた。あれをディスクシステムに差し込んだとき、誰もが知らなかった。これが、のちに世界を席巻する『スーパーマリオUSA』の原型になるとは。

イベントの宣伝媒体として生まれた「イマジンファミリー」

そうそう、あの「野菜を引っこ抜く」感覚だ。地面にグサッと刺さったカブやニンジンを、コントローラーの十字キーを上に倒しながら「うんっ」と引き抜くあの手応え。ファミコンで初めて「引っこ抜く」という行為を体感させたゲーム、それが『夢工場ドキドキパニック』だった。しかし、このゲームが生まれた背景には、当時のゲーム業界では異例の、ある巨大なメディアミックス計画が横たわっていた。1987年、フジサンケイグループが全国で展開した大型イベント「夢工場’87」である。これは単なる博覧会ではなく、テレビ番組、アイドル、音楽、そしてゲームまでを巻き込んだ総合的なキャンペーンだった。任天堂はその一環として、イベントのマスコット「イマジンファミリー」を主人公に据えたゲームの開発を請け負う。ここに、純粋なゲームソフトではなく、あくまで「イベントの宣伝媒体」としての宿命を背負ったタイトルが誕生したのだ。開発スタッフには『スーパーマリオブラザーズ』の面々が名を連ねていたが、彼らに与えられた命題は「マリオの続編を作れ」ではなく、「このキャラクターで面白いゲームを作れ」というもの。結果として生まれた野菜引き抜きアクションは、マリオシリーズの延長線上にはなかった全く新しい遊びの感覚であり、後に海外版『スーパーマリオブラザーズ2』として逆輸入されることになる、稀有な出自を持つ作品となったのである。

縦スクロールが生んだ「引き抜き」のゲームデザイン

そういえば、あのゲームの野菜を引っこ抜く感触は、コントローラーの十字キーをグッと押し込む指先の感覚と一心同体だった。地面から「ポコン」と音を立てて現れるカブやニンジンは、単なるアイテムではなく、武器であり、時には足場であり、パズルの駒でもあった。『夢工場ドキドキパニック』の面白さの核心は、まさにこの「引き抜き」という一つの動作に、ゲームの全てが凝縮されている点にある。キャラクターごとに異なる引き抜きの速さは、単なる能力差ではなく、プレイスタイルそのものを変える重要な要素だった。リーナの素早さ、イマジンの力強さ、それを体感しながらプレイヤーは無意識に戦術を切り替えていたのだ。

このシンプルかつ深いゲームデザインは、ある制約から生まれた。『スーパーマリオブラザーズ』とは異なる「縦スクロール」という画面構成だ。横スクロールのマリオが「走り・跳ぶ」ことを軸にしていたなら、上下に広がる本作の世界では、「持ち上げ・投げる」という垂直方向のインタラクションが必然となった。地面に埋まった野菜は、この世界の「地形」の一部であり、プレイヤー自らがそれを変化させることで攻略が進んでいく。敵を倒すためだけでなく、高い場所に登るための足場として野菜を積み重ねる。その創造的な遊び方は、与えられた制約が逆に豊かな発想を引き出した好例と言える。

さらに、4人それぞれの異なる性能は、当時としては画期的なマルチプレイヤーゲームの原型だった。友達の家で「次は俺がイマジンやる!」とコントローラーを奪い合いながら、それぞれのキャラの特性を活かした協力プレイを自然と生み出していた。あの「引き抜き」の一動作が、キャラクターの個性、戦略、そしてプレイヤー同士のコミュニケーションまでをも包含する、見事にデザインされた核であったのだ。

『スーパーマリオUSA』への変身がもたらしたもの

そういえば、あの絵本の世界で野菜を引っこ抜いて投げつける、あの独特の手応えがあった。『夢工場ドキドキパニック』がなければ、後のゲーム史は確実に違うものになっていただろう。この作品が『スーパーマリオUSA』として海外に渡り、さらに逆輸入される過程で生み出した影響は計り知れない。最大の功績は、キャラクターごとに異なる能力を設定した「キャラクター特性」という概念を、横スクロールアクションに本格的に持ち込んだことだ。イマジンのバランスの良さ、リーナの高いジャンプ力、パパの力強さ、ママの素早さ。この四人四様の操作性は、単なる見た目の違いではなく、攻略方法そのものを変える要素として機能した。後の『スーパーマリオブラザーズ2』(USA版)や、さらには『星のカービィ』シリーズにおける「コピー能力」という多様なアクションの源流にも、この発想は確実に流れ込んでいる。敵やアイテムを「持ち上げて投げる」という一連の動作も、当時のアクションゲームでは画期的なインタラクションだった。これは単なる攻撃手段ではなく、パズルのようなステージ攻略の鍵となり、後のアクションゲームにおける「アイテムを使った間接攻撃」や「環境インタラクション」の先駆けと言える。制限時間やスコアを廃し、じっくりと探索とパズルを楽しませる設計思想は、純粋なアクションから「探索型アクション」への大きな転換点を示していた。あの絵本の中を、好きなキャラクターで、自分のペースで冒険する感覚。それは『夢工場ドキドキパニック』が、単なるメディアミックスの一環を超えて、ゲームデザインそのものに残した、確かな遺産なのである。

GAMEXスコア

キャラクタ 音楽 操作性 ハマり度 オリジナル度 総合
78/100 82/100 85/100 90/100 92/100 85/100

そういえば、あの真っ白な箱に描かれた、どこかコミカルな四人のキャラクターを覚えているだろうか。ゲーム雑誌の一角にひっそりと掲載されたこの採点は、本作の本質を実に見事に言い当てていた。キャラクターの78点という、やや控えめな評価の裏側には、既存のヒーロー像とは一線を画す、どこかとぼけた魅力への評価が込められている。一方、オリジナル度の92点、ハマり度の90点という高スコアが物語るのは、シンプルなステージクリア形式の中に散りばめられた、予測不能なギミックと軽快な操作性の妙だ。総合85点という数字は、奇抜さと遊びやすさが見事に融合した、ひとつの「遊び」の完成形を称える採点に違いない。

あのキャラクターたちは、ファミコンカセットの入れ替えという、子供たちの手による偶然の移植を経て、ゲーム史にその名を刻んだ。『スーパーマリオUSA』として遊んだあの感覚は、実は異国から届いた贈り物だったのだ。知らずに触れていたそのおもしろさは、今やマリオシリーズの礎の一つとして、確かに息づいている。