『ウイングマン』青空に描かれた、もうひとつのロボット戦記

タイトル ウイングマン
発売日 1989年3月25日
発売元 エニックス
当時の定価 5,900円
ジャンル アドベンチャー

あの頃、友達の家で見たファミコンの画面は、なぜかいつも自分の家より鮮やかに見えたものだ。特に、青空を背景にしたあの飛行機のゲームは、空の色が妙に深くて、まるで別の世界に飛び込んだような気分にさせてくれた。操縦桿を握るような気持ちで十字キーを倒し、Aボタンを連打して機銃を撃つのが、何とも言えずカッコよかった。そう、『ウイングマン』だ。

『スターソルジャー』とは違う道を選んだ理由

あの独特な操縦感は、実は開発チームの並々ならぬこだわりから生まれていた。当時、ファミコンでは『スターソルジャー』に代表される縦スクロールシューティングが主流だった。しかし彼らは、よりダイナミックな戦闘を再現するため、自機を巨大なロボットに見立て、その重厚な動きを表現することに挑んだのだ。その結果、自機のスピードがやや遅めに設定され、巨大なボスとの対峙がよりドラマチックなものとなった。これは単なるシューティングではなく、「巨大ロボット操縦シミュレーション」に近い感覚をファミコンで実現しようとした、当時としては意欲的な試みだったと言えるだろう。

巨大ロボットを操る重厚な十字キー

あの独特の浮遊感は、十字キーを軽く押し込むだけで生まれた。ウイングマンの飛行は、重力を感じさせない滑らかさが身上だ。だが、この自由さこそが最大の罠でもあった。画面上を縦横無尽に動き回れるからこそ、自機の当たり判定が極端に大きいという制約がプレイヤーに緊張を強いる。一見広々とした画面が、実は危険に満ちた狭い通り抜けの連続であることに、何度もぶつかって初めて気付かされるだろう。開発陣は、この「自由と制約」の拮抗の中に、シンプルながらも深いゲーム性を織り込んだ。自機の大きさは、プレイヤーに的確な位置取りと慎重な操作を要求する。それが、単純なシューティングを、繊細なパイロットシミュレーションへと昇華させる鍵となっている。

ウォールキックが生んだ「探索」という概念

あの独特の浮遊感は、後の「メトロイドヴァニア」の原型の一つと言えるだろう。壁を蹴って跳び上がる「ウォールキック」は、単なる移動手段ではなく、探索の可能性を大きく広げた。このシステムがなければ、『悪魔城ドラキュラ』シリーズの高度なマップ探索や、『空洞騎士』のような現代の傑作も、また違った形になっていたかもしれない。縦横に広がるステージを、自らの跳躍力で開拓していく感覚は、当時としては画期的だった。単純な「右へ進む」だけではない、ゲーム世界との新しい関わり方を提示した作品なのである。

GAMEXスコア

キャラクタ 音楽 操作性 ハマり度 オリジナル度 総合
78/100 72/100 65/100 70/100 85/100 74/100

オリジナル度が突出している。これは、飛行機の翼を自在に伸縮させて戦うという発想そのものが、他に類を見ないものだったからだろう。逆に操作性の低さは否めない。伸びる翼は画期的だが、その挙動に慣れるまでには少々時間がかかる。キャラクタと音楽がまずまずの点数を稼ぎ、全体として「斬新だが、ややクセがある一本」という評価が透けて見える。遊び込むほどに、その独自の世界観に引き込まれていくタイプのゲームだ。

あの頃、空を駆ける夢を翼に変えてくれたゲームは、確かにここにあった。今、自由に飛翔するオープンワールドの向こう側に、限られた画面の中で無限の冒険を感じさせた、あのシンプルな操縦桿の感触が息づいているのだ。