『ラサール石井のチャイルズクエスト』営業は罵詈雑言、アイドルは借金の塊

タイトル ラサール石井のチャイルズクエスト
発売日 1989年7月22日
発売元 ナムコ
当時の定価 6,800円
ジャンル RPG

そういえば、あの頃、テレビで見かけることも少なかった「チャイルズ」というアイドルグループの名前が、なぜかファミコンのゲームタイトルになっていた。ラサール石井の名前が大きく冠されていながら、中身はブラックユーモアに満ちた、どこかシニカルなアイドル育成シミュレーション。プレイヤーはマネージャーとなり、売れないアイドルを引っ提げて日本全国を営業で駆け回る。戦闘ではなく「よいしょ」で相手の機嫌をとり、罵詈雑言という「口撃」に「たえる」。あのゲームの、あの独特の世界観を初めて目にした時の、なんとも言えない驚きと戸惑いを、覚えている者も多いだろう。

売れないチャイルズと石井光三の背水の陣

そう、あのゲームだ。チャイルズの名前を冠しながら、実際にプレイヤーが向き合うのは罵詈雑言を浴びせかける大人たちだった。あのブラックな営業シミュレーションは、実は芸能事務所の切実な「売り込み」から生まれた。当時、石井光三オフィスが擁するアイドルグループ「チャイルズ」は、デビューしたものの全く売れず、事務所の存続が危ぶまれていた。そんな中、ナムコに持ち込まれた企画が「ゲームで知名度を上げられないか」という、文字通り背水の陣だったのだ。

開発陣は、ただの宣伝ツールでは面白くないと考えた。そこで生まれたのが「マネージャー視点」という発想である。プレイヤーはアイドルではなく、その裏方として全国を駆け回り、罵倒されながらもファンを獲得していく。この「営業」という戦闘システムは、当時のRPGの常識をひっくり返すものだった。「たたかう」が「よいしょ」に、「ぼうぎょ」が「たえる」に置き換えられた画面を見て、多くのプレイヤーは度肝を抜かれたに違いない。敵のストレスを解消させるためにひたすら耐える、というゲーム性は、まさに営業マンの悲哀をシミュレートしていた。

このゲームが持つ業界的な意義は、ライセンス物の可能性を「宣伝」から「表現」へと押し広げた点にある。単にキャラクターを借りるのではなく、その業界の内側、しかもブラックな部分をゲームの核に据えたのだ。結果として生まれたのは、過剰なまでのリアリティと、それゆえの不気味な没入感だった。チャイルズの売れなさと、プレイヤーの苦労が奇妙にシンクロする、他に類を見ない体験を提供したのである。

「よいしょ」と「たえる」という異色の戦闘

そういえば、あのゲーム、戦闘で「たたかう」の代わりに「よいしょ」を選んだよね。コントローラーの十字キーで「よいしょ」を選び、Aボタンを押すたびに、マネージャーが敵にお世辞を並べる。画面に流れる「おせばよいしょのいずみわく」の文字に、思わず小さくガッツポーズを取ったあの感覚だ。これは単なるコマンドの置き換えではない。このゲームの面白さの核心は、RPGという形式を借りて「営業」という行為を徹底的にゲーム化した点にある。

敵はストレスを抱えた一般人であり、罵詈雑言という「こうげき」を浴びせてくる。プレイヤーはそれを「たえる」か、お世辞でご機嫌を取る「よいしょ」で切り抜ける。この二択が生み出す緊張感は独特だ。ひたすら耐えて相手のストレスを解消させるという、他に類を見ない「受動的」な勝利条件は、当時のRPGの常識をひっくり返す発想だった。制約こそが創造性を生んだ好例である。戦って倒すことが目的ではないという根本的なルールの転換が、罵倒に耐えるという一見地味な行為に、逆説的な達成感とブラックユーモアを宿らせている。

この営業システムは、チャイルズというユニットの「みりょく」や、メンバー個々の「フマンド」管理と密接に連動していた。食事や宿泊施設への不満が募ればフマンドが上昇し、戦闘に悪影響を及ぼす。つまり、戦闘の場だけではなく、移動や宿泊といった日常の選択全てがゲームプレイに直結する。一本道の戦闘と成長だけが全てだった当時のRPGにおいて、これは画期的なマルチタスク管理シミュレーションだったと言える。画面右上で点滅する服のマークに慌てて高級ホテルを探したあの焦りが、全てはコンサート成功という一つの目的に向かう有機的なゲームデザインの証左である。

罵詈雑言が生んだ「交渉RPG」の芽

そういえば、あのゲームの営業シーンでひたすら罵詈雑言を浴びせられながら耐えていたら、いつの間にか敵がファンになってくれたあの感覚。あれは、後のゲームデザインに一石を投じる、ある種の「逆転の発想」だったと言えるだろう。

『チャイルズクエスト』の「たえる」ことで敵を味方にするシステムは、後の「説得」や「交渉」を戦闘の一環として組み込むRPGの先駆けとなった。例えば、『女神転生』シリーズにおける悪魔との会話や交渉システムは、戦闘と対話を融合させた点で、この「営業」という概念と通底するものがある。敵を倒すのではなく、別の方法で解決するという選択肢を提示した点で、このゲームは紛れもないパイオニアだったのだ。

さらに、アイドル育成というシミュレーション要素とRPGを組み合わせた点も特筆に値する。メンバーの「フマンド」を管理し、彼女たちの機嫌を損ねないように世話を焼くというプレイヤーの立ち位置は、後の『アイドル雀士スーチーパイ』や、より広義では育成シミュレーションというジャンル全体に、一つの型を示したと言っても過言ではない。戦闘における「よいしょ」と「たえる」という二つのアプローチは、単なる攻防を超えた、プレイヤーに戦略的選択を迫る優れたデザインとして、現代のインディーゲームなどにもその精神は受け継がれている。

GAMEXスコア

キャラクタ 音楽 操作性 ハマり度 オリジナル度 総合
85/100 78/100 72/100 90/100 95/100 84/100

そういえば、あの番組の司会者がファミコンソフトになっていたっけ。テレビの向こう側の人間が、いきなりゲーム画面に飛び出してきた時のあの驚き。『チャイルズクエスト』は、まさにそんな異色の一作だった。

総合84点という数字は、傑作と呼ぶには少し物足りないが、忘れがたい個性を強く示している。何より際立つのはオリジナル度の95点だ。タレント本人が冒険するという発想自体が、当時としては前代未聞。キャラクタ85点、ハマり度90点という高評価は、石井のキャラクター性と、番組さながらのクイズやアクションが織り成す独特の「遊び場」としての魅力を、多くのプレイヤーが認めた証左だろう。

一方で、操作性72点という現実的な評価もまた本作の一面を物語る。ゲームシステムそのものは、当時のアクションゲームの水準を超えるものではなかった。だが、それすらも含めた「ラサール石井というパッケージ」全体が、ひとつのエンターテインメントとして成立していた。点数はあくまで断面でしかない。このゲームが放つ、テレビとゲームが交差した一瞬の熱気こそが、本当のスコアだったに違いない。

あの頃、僕らはただ石井さんの声に笑い、謎解きに頭を悩ませていた。しかし、あの体験は「声優」という存在をゲームに初めて実感させ、物語そのものを楽しむ新しい感覚を植え付けた。今、キャラクターと会話し、世界に没入するRPGの隆盛を見る時、その源流の一つに、あのチャイルドたちの無邪気な冒険があったことを思い出すのだ。