| タイトル | ドアドア |
|---|---|
| 発売日 | 1985年7月18日 |
| 発売元 | エニックス |
| 当時の定価 | 4,900円 |
| ジャンル | アクションパズル |
そういえば、あの頃、友達の家のファミコンで妙に頭を使うゲームがあった。敵をドアに閉じ込めるだけなのに、なぜか手汗がにじんだ。クリアできないと悔しくて、コントローラーの十字キーを擦るように押していたあの感覚。『ドアドア』だ。エニックスの看板を背負ってファミコンに登場する前、このゲームはあるコンテストで一人の青年の運命を変えていた。中村光一、後のチュンソフト創業者だ。彼が賞金50万円を手にしたそのプログラムが、我々の知るパズルアクションの原型となった。ファミコン版は実はその進化形『mkII』がベースで、あの愛嬌ある敵「オタピョン」が追加されたバージョンだったのだ。
中村光一と50万円の衝撃
そう、あの独特の手触りの十字キーを握りしめ、何度も何度もリセットボタンを押したあの感覚だ。ファミコンが家にやってきたあの日、真っ先にカセットを差し込んだのが『ドアドア』だったという人も少なくないだろう。しかし、このゲームが生まれた背景には、当時のゲーム業界を揺るがす、ある「事件」が深く関わっている。それは、エニックスが主催した「第1回ゲーム・ホビープログラムコンテスト」である。今でこそ有名なこのコンテストだが、当時はまだプログラマーが個人で作品を発表する場などほとんどなく、中村光一が『ドアドア』で準優勝し賞金50万円を手にしたことは、業界に小さな衝撃を与えた。これが「ゲームで食べていける」という一つの証明になり、後に続く多くのクリエイターを生み出すきっかけとなったのだ。しかも、このコンテストでの受賞作が、そのままエニックスのファミコン参入第一弾タイトルにまで上り詰めるというのは、当時としては驚くべきスピード出世劇であった。パソコンからファミコンへ――この移植の過程で生まれた『ドアドアmkII』は、中村が起業したチュンソフトの第1号タイトルという、もう一つの歴史を刻んでいる。赤字覚悟で凝りに凝ったプログラムを組んだというその情熱が、後の『ポートピア連続殺人事件』や『弟切草』といった名作へと繋がっていくのである。
半ドアが生む無限のパズル
そういえば、あの頃、友達の家で初めてこのゲームを見たときは、何をやっているのかさっぱりわからなかった。四角い部屋をひたすら行ったり来たりして、ドアを開け閉めしているだけに見えた。しかし、コントローラーを握り、自分でチュン君を動かし始めた瞬間、その単純な動作の奥に潜む深い戦略性に気づかされた。全ての敵をドアに閉じ込めるという唯一無二の目的が、あらゆる思考と操作を一点に集中させるのだ。
このゲームの面白さの核心は、極限まで削ぎ落とされたルールが生み出す無限のパズル性にある。動きが決まっている敵を、狭いステージの中でいかに効率よく誘導し、一つのドアにまとめて追い込むか。半ドアにして出てくるタイミングをずらすという、ほんの少しの操作が、一手順全体を狂わせるか、あるいは見事な一網打尽を生むかの分岐点となる。当時、画用紙にステージを書き写し、友達と「ここでジャンプしたら、こいつはこっちに来るはず」と頭を悩ませたあの時間こそが、このゲームの本質だった。
その創造性は、厳しい技術的制約から生まれている。限られた画面サイズ、少ない色数、単純なキャラクター動作。それらが逆に、ステージデザインの妙と、プレイヤーの想像力に全てを委ねるゲームデザインを産み出した。ドアの取っ手の向き一つが絶対的なルールとなり、梯子は自分専用、網は敵専用という区別が、移動経路という複雑なパズルを構成する。あの頃、何の説明もなく投げ込まれたこの世界で、我々は自らルールを発見し、戦術を編み出していった。『ドアドア』の魅力とは、プレイヤー自身がゲームの論理を「解き明かす」という、他にはない没入感そのものなのである。
チュン君が開いた「仕掛け」の道
そう、あの追いかけてくる敵をドアに閉じ込める、あの手触りのあるパズルアクションだ。『ドアドア』は、単純なルールの中に「誘導」と「仕掛け」という概念をファミコンに持ち込んだ先駆者であった。このゲームがなければ、後の『倉庫番』や『ロードランナー』といった、空間認識と手順を要求されるパズルゲームの隆盛は、もう少し遅れていたかもしれない。特に、敵の動きを読み、ドアという「仕掛け」を使って一網打尽にするというゲーム性は、単なる反射神経だけでない「戦略的な思考」をアクションゲームに組み込んだ点で画期的だった。現代から振り返れば、これは「ステルス」や「罠活用」といったゲームジャンルの萌芽でさえある。一見地味なこの作品が、後のゲームデザインに与えた影響は、そのシンプルなドアの開閉音よりも、はるかに大きな響きを残していると言えるだろう。
GAMEXスコア
| キャラクタ | 音楽 | 操作性 | ハマり度 | オリジナル度 | 総合 |
|---|---|---|---|---|---|
| 85/100 | 78/100 | 82/100 | 90/100 | 96/100 | 86/100 |
そういえば、このゲームのパッケージには妙な採点表が載っていた。キャラクタ85点、音楽78点、操作性82点、そしてオリジナル度だけが飛び抜けて96点。この数字こそが『ドアドア』の全てを物語っている。どこか素朴で、それでいて全く新しいゲームの形。操作性や音楽に少しの不満はあれど、一度その世界に足を踏み入れたら、もう抜け出せないほどの中毒性があった。オリジナル度の高さが、全てを凌駕していたのだ。
ドアドアの迷宮は、我々が初めて手にした「自由」そのものだった。あの暗闇の中を懐中電灯の灯りだけで進む緊張感は、やがてオープンワールドと呼ばれるゲームの原風景となる。一つの扉が、無限の冒険へと繋がっているのだ。
