『妖怪倶楽部』赤い野球カセットを黒く塗りつぶした、妖怪アクションの裏事情

タイトル 妖怪倶楽部
発売日 1987年10月6日
発売元 ジャレコ
当時の定価 5,500円
ジャンル アクションRPG

そういえば、あのカセット、妙に黒かったな。ジャレコのゲームといえば、『燃えろ!!プロ野球』の赤いカセットが店頭に並んでいたのに、なぜか『妖怪倶楽部』だけは真っ黒なカートリッジだった。友達の家で借りて遊んだ時、その違和感が妙に記憶に残っている。あれには、とんでもない事情が隠されていたのだ。『燃えろ!!プロ野球』が予想外のヒットでカセットが足りなくなり、たまたま製造ラインにあった『妖怪倶楽部』のカセットを、中身だけ入れ替えて流用したというのだ。つまり、あの黒いカセットの多くは、最初は野球ゲームになるはずだった“亡骸”なのである。中身は妖怪退治なのに、その器はプロ野球の熱気を宿していた――なんとも不思議な因縁を背負ったゲームだった。

燃えろプロ野球の黒塗りカセット

そうそう、あの黒いカセットだ。ジャレコの『燃えろ!!プロ野球』が予想外のヒットを飛ばし、カセットが底をついた時、開発陣はある決断を下した。野球ゲームの余剰在庫を、全く別のゲームに流用するという荒業である。その結果、『妖怪倶楽部』の初期ロットには、真っ赤な『燃えろ!!プロ野球』のカセットを黒く塗りつぶしたものが紛れ込むことになった。中身は妖怪退治のアクションゲームなのに、外見は野球ゲームという、ある種の「化かし」が製品そのものに仕込まれていたわけだ。当時のソフトハウスは、限られたリソースと流通の事情の中で、こうした機転を利かせてソフトを世に送り出していた。妖怪という題材も、水木しげるブームや子供向けの怪奇ブームを背景に選ばれた、時代の嗅覚が感じられる選択である。一見、無関係な野球ゲームと妖怪ゲームが、カセットという物理的な媒体を通じて繋がっていたという事実は、ファミコン全盛期の熱気と混乱を物語るエピソードと言えるだろう。

サイコフレアーが消える恐怖

そういえば、あのゲーム、経験値が溜まると武器がパワーアップするんだったよな。『妖怪倶楽部』を遊んでいたあの頃、画面上部の細長いメーターが少しずつ伸びていくのを、息を詰めて見つめていた記憶が蘇る。Bボタンを連打して放つナイフ状の「サイコスティンガー」は、どうにも頼りない。でも、敵を倒して赤い球を集め、メーターが最初の区切りに達した瞬間、白い気弾「サイコキネシス」が使えるようになる。その手応えの違いは、子供心に「成長した!」という実感を強烈に与えたものだ。

このゲームの面白さの核心は、まさにこの「経験値による武器の段階的進化」と「使い分けを強いる厳しい制約」が生み出す緊張感にある。最終武器の「サイコフレアー」は画面端まで届く強力な火の玉だが、敵にダメージを受けると経験値が減り、最悪の場合、武器そのものがダウングレードしてしまう。つまり、強力な武器を維持するためには、なるべくダメージを受けずに敵を倒し続け、経験値を稼がねばならない。これは単なるライフ管理ではなく、プレイヤーの戦闘スタイルそのものを規定する、極めてクリエイティブな制約だった。

さらに、この緊張を増幅させるのが、アイテム使用の独特のシステムだ。ポーズ画面でアイテムを選択し、解除後に十字キー上+Bで発動。この一手間が、瞬時の判断を鈍らせる。敵の動きを止める「フラッシュ」か、画面内の敵を一掃する「バクダン」か。効果時間中は他のアイテムが取れなくなるため、使いどころを誤れば、後で必要になる「テレキネシス」が使えずに道が塞がれてしまう。全ての要素が、慎重な資源管理とリスクテイクをプレイヤーに要求する。無双できる爽快感ではなく、危ういバランスの上で力を振り絞る、そのひりひりとした感覚こそが、このゲームの真骨頂だったのだ。

経験値メーターが生んだメトロイドヴァニアの芽

そういえば、あのカセットの色が妙だった。真っ赤な『燃えろ!!プロ野球』のカセットが品切れ続出で、ジャレコは手持ちの黒いカセットを流用した。中身は『妖怪倶楽部』だ。この、ある意味で「野球の影」に生まれたゲームが、後のゲームデザインに与えた影響は、当時の我々には想像もつかないものだった。

最大の遺産は、あの「経験値メーター」だろう。敵を倒して赤い球を集め、メーターを溜めると飛び道具がパワーアップする。これは、単なるアイテム取得による強化とは一線を画す。プレイヤーが能動的に敵と戦い続けることで、自らの「成長」を可視化したシステムだ。この「戦闘による段階的強化」という概念は、後のアクションRPGや、いわゆる「メトロイドヴァニア」と呼ばれるジャンルの萌芽と言える。ステージを進むごとに能力が開花していく感覚は、単に武器を拾う以上の没入感を生み出していた。

さらに、特定のアイテム「テレキネシス」は、経験値を消費して道を塞ぐブロックを破壊する。これは、リソース(経験値)を消費して進路を開くという、戦略的な選択をプレイヤーに強いる。後のゲームで一般的となる「MPや特殊ゲージを使った地形操作」の、極めて初期の実用例と言っていい。『妖怪倶楽部』は、アクションゲームに「育成」と「リソース管理」というRPG的要素を深く織り込んだ、紛れもない先駆者だった。その黒いカセットには、単なる妖怪退治以上の、ゲームデザインの可能性が詰まっていたのだ。

GAMEXスコア

キャラクタ 音楽 操作性 ハマり度 オリジナル度 総合
72/100 65/100 68/100 70/100 85/100 72/100

あの妖怪たちのデフォルメ具合は確かに目を引いた。キャラクター72点というのは、まさにそのビジュアルへの評価だろう。だが音楽65点、操作性68点と、実際に遊んでみると「ちょっと…」という部分が数字に表れている。遊び込むほどに味が出てくるシステムだったが、最初の手触りは確かに独特だったに違いない。しかしここで光るのがオリジナル度85点だ。和風モチーフをこれほど軽妙にゲームに落とし込んだ作品は他になかった。総合72点は、尖った個性が賛否を分けた、あの時代の空気をそのまま伝えている。

妖怪倶楽部は、単なる妖怪図鑑を超えた体験だった。あの手書きの温かみと、収集と育成の楽しさは、後のポケモンや妖怪ウォッチといった大ヒット作に、確かなDNAとして受け継がれている。あの日、僕たちは知らず知らずのうちに、一つの文化の萌芽を手にしていたのだ。