『がんばれゴエモン外伝 きえた黄金キセル』あのゴエモンがRPGに? 和風ファンタジーとコミカル戦闘の異色作

タイトル がんばれゴエモン外伝 きえた黄金キセル
発売日 1990年1月26日
発売元 コナミ
当時の定価 6,800円
ジャンル RPG

あの頃、友達の家で見たファミコンの画面に、いつものゴエモンがいた。でも、いつもと違う。コマンドを選んで、ターンが回ってくる。え、ゴエモンがRPGに? そう、あの『きえた黄金キセル』だ。シリーズ初のロールプレイングゲームという冒険は、和風の世界にコミカルな敵が跋扈する、どこか懐かしくも新鮮な旅だった。戦闘で表情を変える仲間たちの顔グラフィックは、当時のファミコンRPGの中でもひときわ愛らしいアクセントだった。

ゴエモンがRPGに変身した1989年の衝撃

あの頃、ファミコンでRPGと言えば『ドラクエ』か『FF』、あるいは『女神転生』だった。そんな中、突然ゴエモンがRPGになった。アクションでおなじみのあのキャラクターが、コマンドを選んで敵と戦う姿には、誰もが「え?」と首をかしげたに違いない。しかし、この『きえた黄金キセル』が生まれた背景には、当時のコナミの、そしてゲーム業界全体の、ある挑戦が隠されていた。

1989年、RPGブームは確固たるものとなっていた。コナミは、自社の看板キャラクターであるゴエモンシリーズに、この新たな波をどう取り込むか。そこで選んだのが「外伝」という形でのジャンル転換だった。アクションの枠組みを一度外し、和風の世界観とコミカルなキャラクター性をRPGという器に注ぎ込む。これは単なる便乗ではなく、自社IPの可能性を広げるための積極的な実験だった。開発陣は、ファミコンの限られた容量の中で、敵キャラクターひとつひとつに専用のアニメーションを用意するという、当時としては贅沢なこだわりを見せている。倒した際の消滅パターンまで敵の種別で変えるなど、RPGとしての基本を押さえつつ、コナミらしい遊び心を散りばめることで、他社作品とは一線を画す作品を作り上げたのだ。この挑戦は、後のシリーズが様々なジャンルに挑戦する下地となっただけでなく、キャラクターゲームの可能性を業界に示した一例としても意義深い。

風呂屋で回復する和風RPGの核心

そう、あの「外伝」という肩書きに、最初は少し戸惑ったものだ。アクションでおなじみのゴエモンが、なぜRPGに? しかし、コントローラーを握り、十字キーでワールドマップを歩き始めた瞬間、その疑問は吹き飛んだ。画面の向こうに広がるのは、紛れもなく「ゴエモンの日本」だった。和風の町並み、コミカルな敵キャラ、そしてあの独特のBGM。これがRPGの形をとっても、その核心は変わっていない。むしろ、アクションでは味わえなかった「旅する感覚」が、このゲームの面白さを決定づけている。

その面白さの源泉は、制約の中から生まれた創造性にある。当時のファミコンRPGは、剣と魔法の西洋ファンタジーが主流だった。そこに「和風」という制約を課したことで、開発者は逆に自由な発想を手に入れた。武器屋で売っているのは日本刀や鎖鎌、宿屋ならぬ「風呂屋」で全快する。回復アイテムは「にぎりめし」や「かまぼこ」。こうした徹底したローカライズは、単なるギミックではなく、世界観そのものを支える骨格となった。プレイヤーは、どこか懐かしい、しかしゲームの中だけの「日本」を冒険するという、二重の没入感を味わうことになる。

戦闘画面で敵がアニメーションし、味方の顔グラフィックがダメージでしかめっ面になる。こうした細かい「動き」へのこだわりも、アクションゲームを作ってきた開発陣ならではの視点だ。RPGでありながら、キャラクターが「生きている」ことを随所で感じさせる。黄金キセルを探すという単純な目的が、こうした愛嬌ある世界の隅々までを探索したいという欲求に変わる。制約が生んだのは、型破りな和風RPGというジャンルそのものだった。

『天外魔境』以前にあった和風RPGの土壌

あの頃、ゴエモンといえば横スクロールアクションの代名詞だった。だからこそ、突然のRPG化には誰もが驚いたに違いない。しかし、この『きえた黄金キセル』がなければ、後の時代に花開くある潮流は、もっと遅れていたかもしれない。

本作が真に先駆的だったのは、和風ファンタジーというジャンルを、本格的なRPGの舞台として確立した点だ。それ以前にも和風の作品はあったが、多くはアクションかアドベンチャーだった。このゲームが、侍や忍者、化け猫といった日本的なモチーフを、ワールドマップを駆け巡り、コマンドで戦う本格RPGの枠組みに組み込んだことの意義は大きい。戦闘画面で敵がアニメーションし、味方の顔グラフィックがリアクションする演出は、当時のファミコンRPGとしては極めて贅沢なものだった。この「和風RPG」という土壌が整ったからこそ、後に『天外魔境』のような大作が受け入れられる素地ができたと言えるだろう。

さらに、そのコミカルで親しみやすい世界観は、RPGというジャンルが持っていた硬いイメージを、子供たちにとってぐっと身近なものに変えた。洒落の効いた町の名前や、風呂屋やハンバーガーショップで回復するという日常的なギミックは、シリアスな剣と魔法の世界とは一線を画すものだった。この「親しみやすさ」と「本格システム」の融合は、後のライトユーザー向けRPGや、様々なキャラクターが活躍するクロスオーバー作品の一つの原型を見ているようだ。

つまり、この一作は、単なるシリーズの外伝にとどまらない。日本のゲーム文化そのものの「和風」という特質を、RPGという大きな枠組みに昇華させた、重要な転換点だったのである。

GAMEXスコア

キャラクタ 音楽 操作性 ハマり度 オリジナル度 総合
92/100 88/100 75/100 82/100 96/100 87/100

あの独特なキャラクターたちの魅力は、数字にしても92点だ。江戸の町を縦横無尽に駆け回るあの気持ちよさは、操作性75点という評価がすべてを物語っている。確かに慣れるまでは少しもたつくが、一度コツを掴めばこれほど自由な動きはなかった。そして何より、このゲームの核はオリジナル度96点という驚異の数字にある。横スクロールアクションの枠を超え、RPGやアドベンチャーの要素を溶かし込んだその発想は、今でも色褪せない輝きを放っている。音楽が88点、ハマり度82点。総合87点というスコアは、挑戦し、破壊し、そして愛された一作の、等身大の証左と言えるだろう。

あの頃、謎解きに頭を悩ませた少年たちは、今や自らが世界を組み立てる側に回っている。『きえた黄金キセル』が私たちに植え付けたのは、単なるクリアではなく「読み解く」という、より能動的な遊びの愉しみだった。だからこそ、そのDNAは形を変えながら、今も確かに息づいているのだ。