| タイトル | つっぱり大相撲 |
|---|---|
| 発売日 | 1987年9月18日 |
| 発売元 | テクモ |
| 当時の定価 | 5,500円 |
| ジャンル | スポーツ |
あの頃、友達の家で必ず揉めていた。順番待ちの列ができ、コントローラーを握る手には汗がにじむ。画面には土俵と、色とりどりのふんどし姿の力士たち。ファミコンで初めて「大相撲」を遊べると知った時の衝撃は、今でも忘れられない。ただのスポーツゲームではない。これは、我々が横綱になるための、汗と涙と、そして「つっぱり」の物語だった。
猪瀬祥希が企画書を破り捨てた日
そうそう、あの「もろだし」だ。局部丸出しで真っ赤になった力士が土俵を逃げ出す、あの衝撃の演出は、ファミコンという箱の中で何が許されるのか、その境界線を一気に押し広げてくれた。だが、このゲームが生まれた背景には、もっと泥臭い、開発現場の修羅場があった。
1987年、テクモは『忍者龍剣伝』の開発と並行して、この『つっぱり大相撲』の制作を進めていた。しかし、当初は外注に任せていた開発が、発売日を告知した後に確認すると、なんと2割しか進んでいなかったという。契約を破棄し、社内で一から作り直すという綱渡りのスタートだった。プログラマの猪瀬祥希は、操作性に納得がいかず、企画担当者の目の前で企画書を破り捨て、操作系を2度も全面改修したというエピソードが残る。あの独特の「つっぱり」や「ぐらつき」は、そうした執念の末に生まれた感触なのだ。
業界的に見れば、このゲームは二つの大きな挑戦を成し遂げている。一つは、家庭用ゲーム機で初めて本格的な大相撲ゲームのシステムを確立したこと。後の相撲ゲームのほとんどがこのシステムを踏襲していることからも、その先駆性は明らかだ。もう一つは、プレイヤー名に漢字を入力できるようにした、ファミコン初の試みである。当時はカタカナが主流だった中で、本物の力士名に近い感覚を追求した、小さな革命だった。夜中にこっそりと特殊技を仕込んだプログラマの遊び心と、ゲームシステムそのものへの真摯な挑戦。その両方が、この一作には詰まっている。
仕切りで光る一瞬の黄色い閃光
そういえば、あのゲーム、取組の前に必ず「はっけよい、のこった!」の掛け声と共に、力士がしゃがみ込む仕切り動作があった。あの一連の流れ、待ちきれなくてコントローラーの十字キーを無意識にガチャガチャいじっていたのを覚えているだろうか。『つっぱり大相撲』の面白さの核心は、この「仕切り」に象徴される、シンプルなルールと深い駆け引きの妙にある。押す、突く、投げる、吊る。操作はいたって単純だ。しかし、相手の体力ゲージが「光る」瞬間を見逃すな、とゲームは教えてくれる。あの黄色い閃光が、投げ技が決まる絶好のチャンスの合図だ。単なるボタン連打では決して勝てない。相手の動きを読み、間合いを計り、一瞬の隙を突く。その緊張感こそが、単純な操作体系から生まれた意外なほどの戦略性だった。開発が一度リセットされ、操作系が二度も作り直されたというエピソードは、この「シンプルだけど深い」感覚を追求した苦闘の跡だろう。限られたボタンと方向キーだけで、相撲の駆け引きの全てを表現しようとしたからこそ、あの独特の手触りと熱気が生まれたのである。
すうぷれっくすが拓いた格闘ゲームの未来
そういえば、あの土俵の上で繰り出された、あの「投げ」は、明らかに相撲の技ではなかった。相手の背後に回り込み、両腕を組んで背中からマットに叩きつける、あの動き。あれは紛れもなくプロレスのジャーマン・スープレックスだ。『つっぱり大相撲』が隠しコマンドとして仕込んだこの「すうぷれっくす」は、単なるお遊びではなかった。これは、後の格闘ゲームというジャンルが、現実の競技の枠を超えて「カッコいい技」を追求する方向性を、いち早く示していたのだ。このゲームがなければ、『ストリートファイターII』のサガットが繰り出す「タイガーアッパーカット」や、『餓狼伝説』のテリー・ボガードの「パワーゲイザー」のような、競技のリアリティを超えた独自の「必殺技」の概念は、もっと遅れて登場したかもしれない。さらに、廻しが取れる「もろだし」や、自分が投げ飛ばされながら逆転する「あびせたおし」といった、ゲームならではの「ネタ」と「システム」を融合させた仕掛けは、後の『桃太郎電鉄』シリーズに代表される、シミュレーションとギャグが同居するゲームデザインの先駆けと言える。現代から見ればグラフィックもシンプルだが、そのゲームシステムの自由度と遊び心の豊かさは、数多くの後続作品にそのDNAを確かに残しているのだ。
GAMEXスコア
| キャラクタ | 音楽 | 操作性 | ハマり度 | オリジナル度 | 総合 |
|---|---|---|---|---|---|
| 92/100 | 78/100 | 85/100 | 94/100 | 96/100 | 89/100 |
あの独特の手触り、だ。コントローラーの十字キーで取り組みを操る感覚は、他に類を見ない。だから操作性85点は納得だ。少々クセがあるが、慣れればこれがたまらない。
キャラクタ92点、オリジナル度96点。この数字が全てを物語っている。力士たちのデフォルメされた風貌、あの「ズシン」という音と共に土俵に叩きつけられる演出。これが大相撲ゲームだと言い切った強さが、ハマり度94点という圧倒的な支持に繋がっている。
音楽78点は、ある意味で本作の潔さを示している。派手なBGMではなく、土俵の緊張感を優先した選択。点数以上に、相撲という競技の空気を見事に再現していたと言えるだろう。
あの頃、友達と肩を組みながら見上げたCRTの土俵は、確かにここから始まっていたのだ。派手な技と駆け引きがゲームの核になるという、後の格闘ゲーム隆盛の予感を、我々はすでに四本の指で掴んでいたのである。
