『へべれけ』酔っぱらいおじさんが挑む、常識破りの横スクロール

タイトル へべれけ
発売日 1991年11月8日
発売元 サン電子
当時の定価 6,500円
ジャンル アクション

あの頃、親に内緒でこっそり遊んだゲームの主人公は、大抵がヒーローか勇者だった。だが、彼は違った。画面の中の男は、よろよろと歩き、時折ぶっ倒れ、挙句の果てには嘔吐さえする。コントローラーを握った子供たちは一様に「この人、大丈夫?」と心配になったものだ。そう、あのゲームの主人公は、とことんまで「酔っ払い」だった。

酔っぱらいおじさんが教えた「ゲームらしさ」の崩し方

そう、あのゲームは確かに「へべれけ」だった。タイトルを見た瞬間、子供心に「これは何だ?」と思ったものだ。当時はまだ、ゲームのタイトルが必ずしも内容を説明するものではないということを、このソフトが教えてくれた。サンソフトというメーカーは、この頃から既に型破りなセンスで知られていた。彼らは、ゲームの主人公を英雄や戦士ではなく、酔っ払ったおじさんにした。この発想自体が、当時のゲーム業界における一種の挑戦だったと言える。ファミコン全盛期、多くの作品が分かりやすい勧善懲悪のストーリーを採用する中で、このようなナンセンスでシュールな世界観を前面に押し出したことは、非常に大胆な試みであった。ゲームの舞台が現代の街中であり、武器が酒瓶や傘である点も、ファンタジーやSFが主流だった当時としては異色だった。この作品は、ゲームが「遊び」であることの原点を、ユーモアと風変わりなアイデアで思い出させてくれたのである。

操作性の悪さが生んだ予測不能なドタバタ劇

そう、あの感覚だ。十字キーが妙に滑るように感じて、キャラクターが思った通りに動いてくれない。まるで自分が酔っぱらったかのような、あの独特の操作感こそが『へべれけ』の全ての始まりだった。ゲームデザインの核心は、この「不自由さ」そのものを遊びに転化した点にある。通常のアクションゲームであれば、操作性の悪さは致命的な欠陥でしかない。しかしこのゲームでは、それが最大の特徴であり、笑いとハラハラの源泉となった。酔っぱらった主人公を操作するというコンセプトが、操作性の悪さを「仕様」として昇華させたのだ。プレイヤーは、キャラクターがくねくねと蛇行し、思わぬ方向に跳ねてしまうという制約の中で、どうにかしてステージを攻略しようともがく。この「もがき」そのものがゲームプレイの楽しさに直結している。制約が生み出したのは、完璧なコントロールを前提とした従来のゲームにはない、予測不可能なドタバタ劇だった。コントローラーを握る手に力が入り、思わず「こらっ!」と声が出てしまう、あの体験こそが『へべれけ』の真骨頂なのである。

「酔い」がゲームメカニズムになった先駆け

そういえば、あのゲームの主人公は、最初から最後までろれつが回っていなかった。コントローラーを握る我々も、あのぐにゃりと曲がりくねった操作性に、思わず「おいおい、大丈夫かよ」とツッコミを入れたものだ。『へべれけ』というタイトルが示す通り、これは完全な「酔っぱらいシミュレーター」の先駆けだったと言える。あの不安定な動き、視界を歪ませる画面効果、そして何より「酔い」がゲームプレイの核心メカニズムとなっている点が、後のゲームデザインに一石を投じた。

例えば、キャラクターの状態異常としての「酔い」は、単に能力値を下げるだけのデバフではなかった。『へべれけ』はそれを「世界の認識の仕方そのものを変えてしまうインタラクション」に昇華させて見せた。この発想は、プレイヤーの操作感覚や視覚そのものを攪乱するゲーム内効果として、後の様々な作品に受け継がれていく。単なるパロディやギミックを超えて、キャラクターの「状態」がゲーム世界の物理法則すら捻じ曲げるというアイデアは、まさにこのゲームが切り開いた荒野の一つだった。

現代のインディーゲームを見渡せば、常識的な操作性をあえて捨て、不自由さや気持ち悪さそのものを楽しむ作品が少なくない。そうした潮流の源流をたどれば、あのふらつく酔っぱらいの姿に必ず行き着く。『へべれけ』は、ゲームが「気持ちいい操作」だけを追求するものではない、という可能性を、酔いどれの足取りでまっすぐに、そしてぐにゃぐにゃと示した先駆者なのである。

GAMEXスコア

キャラクタ 音楽 操作性 ハマり度 オリジナル度 総合
85/100 78/100 90/100 92/100 95/100 88/100

キャラクターの85点は、あのゆるくも愛らしいデフォルメが確かに受け入れられた証だろう。しかし、真に光るのは操作性の90点とオリジナル度の95点だ。直感的な操作感と、パズルとアクションを融合させた独自の遊びは、多くのプレイヤーを虜にした。音楽の78点は、確かに印象的なメロディではないが、ゲームのゆるい世界観には不思議とマッチしている。総合88点は、奇抜なアイデアが確かな遊びに昇華された、稀有な作品であることを物語っている。

あの頃の子供部屋で、へべれけはただのゲームではなく、友達との笑いを記録する装置だった。現代のパーティーゲームが目指す「誰でも楽しめる」という原点は、このカオスな箱庭にすでに存在していたのだ。