『ディープダンジョンIV 黒の妖術師』暗闇を照らす灯火は、己の勇気だけだった

タイトル ディープダンジョンIV 黒の妖術師
発売日 1990年12月14日
発売元 アスミック
当時の定価 7,800円
ジャンル RPG
開発元 ハミングバードソフト

あの頃、ファミコンの画面に広がる真っ暗な迷宮は、子供心に本物の恐怖だった。ただひたすら壁をなぞり、足音だけが響く薄暗い通路。突然現れるモンスターのシルエットに、思わずコントローラーを握りしめた記憶は、今でも鮮明に残っている。『ディープダンジョンIV 黒の妖術師』は、そんな3DダンジョンRPGの、ファミコンにおける一つの到達点だった。

DOGがファミコンに移植した「本格RPG」という賭け

あの暗い画面に映る壁の向こうに何があるのか。ただひたすらに進み、戦い、アイテムを漁る。ファミコンで初めて3Dダンジョンを歩いた衝撃は、『ウィザードリィ』を知る者には懐かしく、知らない者には未知の恐怖だった。このシリーズが生まれた背景には、当時まだ黎明期にあった家庭用ゲーム機における「本格RPG」という、ある種の賭けがあった。ディスクシステムという新たな媒体を武器に、スクウェアを中心とした複数のパソコンメーカーが結集したDOGという団体が、その旗手として『ディープダンジョン』を送り出したのである。それはパソコンゲームの持つ深みと複雑さを、ファミコンという「子供の玩具」に移植するという、文字通りの越境作業だった。開発を担ったハミングバードソフトは、限られた容量と表現力の中で、迷路の奥行きと不気味な臨場感をどうにか形にした。その試行錯誤の痕跡は、後に同社が手掛ける『ロードス島戦記』のシステムにまで連なっているという指摘もある。シリーズがロムカセットに移行し、最終作『IV 黒の妖術師』がアスミックから発売される頃には、3Dダンジョンは一部の熱狂的なファンと、それを敬遠する大多数のプレイヤーとに市場を分かつ、一種の「選ばれたジャンル」となっていた。あの暗闇の中を歩き続けた体験は、確かに後のRPGの地層の一つを形作ったのである。

白い線と黒い画面が生んだ想像力の洞窟

そうだ、あの暗闇の中を手探りで進む感覚を覚えているだろうか。十字キーを押すたびに、画面中央の視点がカクッ、カクッと90度ずつ回転する。壁に沿って慎重に進み、次の角を曲がる瞬間、息を潜めたものだ。『ディープダンジョンIV 黒の妖術師』の面白さは、この極限まで削ぎ落とされた「探索」そのものにある。グラフィックはワイヤーフレームの壁と天井、そして敵遭遇時に表示される一枚絵だけ。情報は全てプレイヤーの頭の中に蓄積されていく。メモ用紙にびっしりと書き込んだ自作のマップこそが、このゲームにおける唯一無二の装備品だった。

黒い画面と白い線が生み出す想像力の洞窟

このゲームの創造性は、ファミコンの技術的制約が生み出した「空白」から湧き上がってくる。派手な魔法エフェクトも、広大なフィールドマップもない。あるのは、自らが描き出す迷路の線と、遭遇した敵の不気味な姿だけだ。だからこそ、プレイヤーの想像力が猛烈に働く。次の部屋には何が待ち構えているのか。この先の分かれ道はどこへ続くのか。画面に映らない部分を、自らの頭で補完し、膨らませていく過程そのものが、このゲームの最大のドラマである。それは、完成されたグラフィックで全てを見せられてしまうよりも、はるかに濃密でパーソナルな体験だった。

マップを握る手に宿る、本当の冒険者としての証

攻略本の完成形マップを見てクリアするのと、白紙の状態から自力で迷宮を解きほぐしていくのとでは、得られる達成感が雲泥の差だ。『黒の妖術師』は後者を強要する。方向感覚を失い、同じ場所をぐるぐる回る焦燥感。ようやく見つけた階段が、たった一階層上に戻るだけの落とし穴だった時の絶望。それら全てを乗り越え、自分だけの手書きマップが完成に近づいていく過程には、他のRPGでは味わえない、探検家としての純粋な喜びが横たわっていた。コントローラーを握る手のひらに汗をかきながら、次の一歩を踏み出す決断を繰り返す。その積み重ねの先に、黒の妖術師との対峙が待っているというわけだ。

ハミングバードソフトが『ロードス島戦記』に繋げた技術

そういえば、あの暗闇の中で地図を描きながら進む感覚は、ファミコンで初めて味わったものだった。『ディープダンジョンIV 黒の妖術師』は、シリーズの集大成として、3DダンジョンRPGというジャンルを日本の家庭用ゲーム機に深く根付かせた作品である。このゲームがなければ、後の『ロードス島戦記』のような、より物語性の高いファンタジーRPGの土台は生まれなかっただろう。開発元であるハミングバードソフトが本作で培った3Dダンジョンの表現技術と、プレイヤーを没入させる暗く重厚な世界観は、単なる『ウィザードリィ』の模倣を超えて、独自の系譜を築き上げた。当時は「難しい」「暗い」と敬遠されたこのゲーム体験そのものが、後のダンジョン探索型RPGの一つの原型となったのである。

GAMEXスコア

キャラクタ 音楽 操作性 ハマり度 オリジナル度 総合
72/100 68/100 65/100 85/100 78/100 74/100

総合74点は、良作の証だ。しかし内訳を見れば、このゲームの個性が浮かび上がる。ハマり度の85点が突出している。ダンジョンを掘り進め、装備を集め、パーティを育てる。その中毒性は確かなものだった。一方、操作性65点は当時の迷宮探索ゲームの宿命とも言える。コマンド入力の煩雑さ、戦闘の単調さ。それらを乗り越えた先に、高いハマり度が待っていたというわけだ。音楽やキャラクタは平均点をやや上回る。地味だが、じわじわとプレイヤーをその世界に引き込んでいく力が、ここにはある。

あの暗闇を懐中電灯の灯りだけで進んだ緊張感は、後のダンジョン探索ゲームに確かな爪痕を残した。懐中電灯の電池が、今ではスタミナゲージや制限時間という形で受け継がれていることに気づけば、我々はあのダンジョンの深部で、単なるアイテム以上の何かを手にしていたのだとわかるだろう。