| タイトル | 本将棋 内藤九段将棋秘伝 |
|---|---|
| 発売日 | 1986年7月25日 |
| 発売元 | セタ |
| 当時の定価 | 5,500円 |
| ジャンル | テーブル |
将棋盤の上に、あの独特の四角い駒が並ぶ。ファミコンで将棋を指すなんて、と最初は思ったものだ。だが、このソフトには秘密があった。パッケージに大きく書かれた「内藤九段」の名前に、子供心にも何か本物の「強さ」が宿っている気がして、手に取らずにはいられなかった。あの盤面の駒の動きは、単なるゲームを超えて、どこか厳かな「お稽古」の時間をもたらしてくれたのだ。
ファミコンの木目に込められた「本物」への執念
あの将棋盤の質感は、本物の木目を必死に再現した開発者の執念だった。当時、家庭用ゲーム機で「本格将棋」を謳うソフトは数あれど、そのほとんどが駒の動きを再現するだけで終わっていた。しかし内藤九段監修という看板を掲げた以上、ハードの限界を超える「本物らしさ」が求められた。ファミコンの発色限界の中で木目を表現するため、開発チームはわずか数ピクセルのドットと、当時としては贅沢な容量を割いた背景パターンとを駆使した。結果として生まれた盤面は、確かに他社の将棋ソフトとは一線を画す、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。これは単なるゲームではなく、「遊び」の枠を超えて「文化」を伝達するメディアとしての、初期の貴重な挑戦だったと言えるだろう。
十字キーとABボタンで生まれた指し手の感覚
あの十字キーとA・Bボタンだけで、盤面の駒を自在に操る感覚は、まるで本当に指しているかのようだった。このゲームの核心は、複雑な将棋のルールをファミコンという限られた入力デバイスにどう落とし込むか、という一点に尽きる。開発者は、カーソル移動と「決定」の二動作だけで、駒の選択・移動・成り・持ち駒使用という一連の操作を成立させた。この制約こそが創造性の源だった。例えば、敵陣で「決定」を押せば自動で「成る」という仕様は、煩雑さを排除し、ゲームの流れを劇的にスムーズにした。盤面全体が一つの操作画面に収まり、一手一手に没入できるこの設計は、後の将棋ソフトの基礎となったのだ。
詰将棋モードが生んだ「学習ソフト」という遺産
そういえば、あの将棋ソフトは「勝てない」という理由で友達の間で敬遠されていた。だが、この『内藤九段将棋秘伝』がなければ、後の「詰将棋モード」という概念は生まれていなかったかもしれない。本作は、単なる対局シミュレーションではなく、プロ棋士・内藤國雄監修による「詰め将棋」と「次の一手」を収録した、いわば「学習ソフト」の先駆けだった。この「問題を解く」という構造は、後の『桃太郎電鉄』のようなボードゲーム内のミニゲームや、RPGにおけるパズル要素の原型の一つと言える。現代の目で見ればAIの弱さは否めないが、遊びながら上達を目指すという、ゲームの教育的可能性を早くも示した一作なのである。
GAMEXスコア
| キャラクタ | 音楽 | 操作性 | ハマり度 | オリジナル度 | 総合 |
|---|---|---|---|---|---|
| 65/100 | 70/100 | 78/100 | 85/100 | 92/100 | 78/100 |
そうそう、あの将棋ソフトだ。盤面が真っ黒で、駒の動きが妙にリアルだったあのゲームを覚えているだろうか。キャラクタ65点というのは、確かにグラフィックは地味そのものだ。しかし操作性78点、ハマり度85点という数字が全てを物語っている。これは遊びやすさと中毒性で勝負したソフトなのだ。そして何よりオリジナル度92点。これは単なる将棋ゲームではない。内藤九段という実在の棋士の「秘伝」を再現しようとした、ある種のシミュレーターだった。盤面の黒ささえ、集中を促す仕掛けに思えてくるから不思議だ。
あの盤面の感触は、確かに今のゲーム文化に受け継がれている。一見地味なタイトルが、将棋ゲームの「遊びやすさ」の礎を築いたのだ。あなたが次に将棋ソフトを起動する時、そのルーツにはファミコンのカセットが回る音が聞こえてくるだろう。
