| タイトル | 熱血硬派くにおくん |
|---|---|
| 発売日 | 1987年5月26日 |
| 発売元 | テクノスジャパン |
| 当時の定価 | 5,500円 |
| ジャンル | アクション |
そういえば、あの頃、ゲームセンターの奥の暗い一角に、いつも数人の上級生が群がっていたコーナーがあった。画面には、学生服を着た男が、ヤンキーたちをバッタバッタと殴り倒していた。それが『熱血硬派くにおくん』との最初の出会いだった。ファミコンで遊べるようになった時、あの喧嘩の手触りを自宅で味わえることに、子供心に一種の背徳的な興奮を覚えたものだ。
瀧邦夫社長の名を冠した不良たちの反乱
そう、あの頃のゲームセンターは、喧騒と汗と鉄の匂いが混じった熱気に満ちていた。そしてその一角に、それまでのゲームとは明らかに空気の違う筐体が現れたのだ。不良たちの喧嘩を描いた『熱血硬派くにおくん』は、当時のゲーム開発者たちが抱いていたある種の「反骨」から生まれた作品だった。開発元のテクノスジャパンは、それまで『エキサイティング・アワー』のようなレースゲームを手がけていたが、スタッフの岸本良久はもっと「自分たちのリアル」を表現したいと考えていた。その答えが、彼自身の高校時代の記憶や、当時の不良漫画の影響を色濃く反映した、この喧嘩ゲームだった。業界的には、一対一の対戦格闘が主流だった時代に「一対多」の集団戦闘をベルトスクロール形式で見事に確立した、紛れもない先駆者である。しかも、主人公の名前が社長の「瀧邦夫」から取られているという、今では考えられないような遊び心も込められていた。この作品がなければ、後の『ダブルドラゴン』や『ファイナルファイト』といったベルトスクロールアクションの黄金時代は、また違った形で訪れていたかもしれない。
ダッシュパンチと背負い投げが生んだ一対多の戦術
そうそう、あの頃のゲームセンターは喧噪と汗の匂いが充満していた。コインを握りしめた手のひらは、いつも少し湿っていたものだ。『熱血硬派くにおくん』の筐体の前に立つと、まず目に飛び込んできたのは、一画面にわんさと詰め寄ってくる敵の群れだった。レバーを握り、たった三つのボタンで、あの圧倒的な数の不良たちに立ち向かわなければならない。この「一対多」という絶望的な状況こそが、このゲームの面白さの核心だった。
レバーを左右に二度倒すダッシュ。走りながらパンチボタンを押せばダッシュパンチ。敵の背後を取れば、襟をつかんでヒザ蹴り、あるいは背負い投げ。投げた敵が別の敵にぶつかれば、一撃で倒せる。このシンプルな操作体系の中に、驚くほどの戦術の幅が凝縮されていた。画面の端に追い詰められ、四方から敵が迫る。そんな絶体絶命の状況で、背負い投げを決めて敵を画面中央に放り投げ、その衝撃で複数の敵をなぎ倒した時の爽快感はたまらない。アーケード版の限られたメモリと表現力という制約が、逆に「いかに少ないアクションで群衆を制圧するか」という創造性を生んだ。パンチとキックだけではない。ダッシュ、ジャンプ、掴み、投げ、そして地形。すべてが武器になり、すべてが生存のための手段だった。
当時、多くのアクションゲームが一対一の対決か、せいぜい数体の敵を順番に倒していくスタイルだった中で、『くにおくん』は「群衆の中を殴り進む」という全く新しい感覚をもたらした。それは、不良漫画で見るような、集団での乱闘を、初めてゲームとして再現した瞬間だった。コントローラーを握る手に力が入り、無意識のうちに体が左右に動く。あの没入感は、シンプルだからこそ生まれた、紛れもない「面白さ」の証だった。
ツッパリ文化と掴み投げが『ファイナルファイト』に繋いだ道
そうそう、あの「襟をつかむ」感覚だ。レバーをグイッと倒して、ボタンを押す。画面の向こうでくにおが相手のジャンパーの襟を掴み、膝蹴りを浴びせ、背負い投げで地面に叩きつける。この一連の動作が、どれだけ後のベルトスクロールアクションゲームの基本文法となったか。『ファイナルファイト』や『ベア・ナックル』が登場するはるか以前に、一対多の乱戦において「掴み」と「投げ」という格闘ゲーム的な要素を組み込み、群衆を制圧する爽快なリズムを確立していた。画面がスクロールしない初期のフォーマットながら、その核となる戦闘思想は、後の数多の作品に継承されたと言っていい。
さらに見逃せないのが、その舞台設定だ。学ランにドス、暴走族。いわゆる「ツッパリ」文化を真正面から題材にした、おそらく最初のゲームである。この「不良」という極めて日本的なテーマと、アクションゲームという形式の融合は、後に『くにおくん』シリーズがドッジボールやサッカーなど多様なスポーツへと枝分かれしていく土壌を作っただけでなく、『喧嘩番長』のような別系統の不良アクションゲームの系譜をも生み出す源流となった。あの頃、ゲームセンターの筐体に映ったくにおの姿は、単なるキャラクターを超えて、ある種の「カッコよさ」の象徴でもあった。派手なアクションと不良美学が結びついたその構図は、後の時代のゲームにも色濃く影を落としている。
GAMEXスコア
| キャラクタ | 音楽 | 操作性 | ハマり度 | オリジナル度 | 総合 |
|---|---|---|---|---|---|
| 92/100 | 78/100 | 85/100 | 90/100 | 98/100 | 89/100 |
そういえば、あのゲームセンターの喧噪の中で、初めて「くにお」という名前に出会った時の衝撃を覚えているだろうか。ファミコンで喧嘩をする、ただそれだけのゲームなのに、なぜか手が離せなかった。このスコアは、まさにその秘密を暴いている。キャラクタ92点、オリジナル度98点という突出した高さが物語るのは、不良少年という、それまでゲームの主人公になり得なかった「反英雄」の鮮烈な登場だ。操作性85点は、一見シンプルだが、パンチとキックの使い分け、ジャンプ蹴りという奥深さへの評価だろう。音楽78点は、確かにBGMは印象的だが、効果音のインパクトに比べれば地味に感じた、あの頃の素直な感覚を反映している。ハマり度90点は、敵を倒す快感と、あの独特の「テクニック」を覚えていく過程そのものだ。総合89点という数字は、規格外の存在が、確かに面白いと認められた証なのである。
あの喧嘩の熱さは、単なる暴力ではなく、ゲームが持つ「カタルシス」の可能性を切り開いた。現代の格闘ゲームやオープンワールドに流れる、自由な暴力と笑いの系譜は、間違いなくこの路地裏から始まっている。くにおの背中を見て育ったと言えるゲームは、きっと数え切れないだろう。
