『スパルタンX』ジャッキー・チェンじゃない、マリオが走る映画ゲームの謎

タイトル スパルタンX
発売日 1985年6月21日
発売元 アイレム
当時の定価 4,900円
ジャンル アクション

あのゲーム、映画のタイトルがそのままついてたよな。ジャッキー・チェンがキッチンカーでハンバーガーを売りながら、なぜかスペインで大暴れする映画だ。『スパルタンX』。ゲームのパッケージには、なぜか映画の一場面とは似ても似つかない、赤いタンクトップの男がドラゴンを殴り飛ばしている。子供心に「あれ、これ映画と関係あるの?」と首をかしげたものだ。

マリオがジャッキー・チェンに変身した日

そう、あの映画のゲームがあったんだよ。ファミコンが発売された翌年の1984年、『スパルタンX』というタイトルのゲームが我々の前に現れた。だが、そのゲームを遊んだ誰もが首をかしげたに違いない。なぜなら、画面上を走り回るのはジャッキー・チェンでもサモ・ハンでもなく、あの『マリオブラザーズ』のマリオだったからだ。

実はこのゲーム、映画『スパルタンX』の権利を取得して作られたわけではない。当時の任天堂は、自社の看板キャラクターであるマリオを海外市場に浸透させるための戦略として、『マリオブラザーズ』のゲームシステムを流用し、人気映画のタイトルを冠した作品をいくつかリリースしていた。『スパルタンX』はその一環であり、日本では『マリオブラザーズ』の亜種として発売されたというのが真相だ。つまり、ゲーム内容と映画のストーリーは一切関係がない。バルセロナもキッチンカーも、ベニー・ユキーデとの死闘も、このゲームには存在しないのである。

それにしても、なぜ『スパルタンX』というタイトルが選ばれたのか。当時の任天堂は、アーケードゲームの移植や、自社キャラクターを用いた新たなゲーム展開に積極的だった。『マリオブラザーズ』のシステムは、フロアを清掃する(敵を倒す)という単純明快なもので、様々な「スキン」を被せて商品化するにはうってつけだった。人気映画のタイトルを借りることで、ゲームの認知を図ろうとしたのだろう。結果として、このゲームは「マリオが映画のゲームをやっている」という、ある種のメタ的な存在になってしまった。我々がコントローラーを握り、マリオを操作してパイプを駆け上がっていた時、その背景には任天堂のしたたかなキャラクター戦略が横たわっていたのである。

殴るか跳ぶか、二択の舞台

そうだ、あの映画のゲームがあった。ジャッキー・チェンがキッチンカーで走り回るあの映画だ。だが、ファミコン版『スパルタンX』をコントローラーに汗をにじませて遊んだ者なら、すぐに気づく。ゲームの内容は映画とはまるで違う。あの独特のゲームデザインの核心は、むしろ「制約」から生まれた創造性にある。

十字キーと二つのボタンだけ。そのシンプルなインターフェースが、すべてのアクションを「殴る」と「跳ぶ」に集約させた。だからこそ、あの階段の踊り場での戦いは緊張の連続だった。上から飛び降りてくる敵を、タイミングを計ってジャンプで避け、あるいはその頭上を蹴り飛ばす。画面がスクロールせず、一画面が一つの「舞台」として完結している構造。これが、プレイヤーに「舞台の上で演じる」ような感覚を植え付けた。限られた画面の中で、敵の出現パターンを覚え、最適な動きを模索する。それはまるで、ジャッキー・チェンが命がけで組み立てるアクション・シーケンスを、自分自身で再構築する作業に似ていた。

このゲームが面白いのは、単純な操作の中に「駆け引き」と「リズム」が埋め込まれているからだ。敵を倒すだけが目的ではない。無駄な動きを省き、いかに効率的に、そしてカッコよく舞台をクリアするか。そこに没頭するうちに、プレイヤー自身が「スパルタンX」の主人公になった気分にさせられる。映画のストーリーをなぞらなかったからこそ、ゲームというメディア独自の「身体性」と「反復の快楽」を純粋な形で提示できた。あのコントローラーの感触と共に、それは確かに記憶に刻まれている。

キッチンカーの屋根が生んだ格闘ゲームの文法

そういえば、あのキッチンカーの屋根の上でジャッキーがバク転を決めていたな。『スパルタンX』のあの軽快なアクションは、単なるカンフー映画の域を超えていた。実はこの映画の戦闘シーン、特にジャッキーとベニー・ユキーデの対決は、後のビデオゲームにおける格闘システムに直接的な影響を与えたと言っていい。あの間合いの取り方、コンボのような連続攻撃、そして決め技としての飛び膝蹴り。これらは『ストリートファイターII』をはじめとする格闘ゲームの基本文法そのものだ。キャラクターが特定の「必殺技」を持ち、それを決定的な瞬間に放つという演出は、映画のクライマックスをインタラクティブに再現しようとする試みの先駆けだった。さらに、三人の主人公がそれぞれ異なる戦闘スタイル(トーマスのアクロバティックなカンフー、デヴィッドの器用さ、モビーの小器用さ)を持っていた点は、プレイヤーキャラクターごとに特性を分けるというゲームデザインの原型を見るようだ。あの映画がなければ、格闘ゲームの「熱さ」はもう少し違ったものになっていたかもしれない。

GAMEXスコア

キャラクタ 音楽 操作性 ハマり度 オリジナル度 総合
85/100 78/100 70/100 82/100 90/100 81/100

そういえば、このゲーム、最初のステージでいきなり巨大なボスが立ちはだかるんだったな。あのインパクトは今でも忘れられない。

キャラクタ85点、オリジナル度90点という高評価は、まさにあのケン・マスターズのビジュアルと、アーケードとは一線を画す独自のステージ構成に起因している。ゲームセンターで見た横スクロールの格闘ゲームが、縦にスクロールする冒険譚に生まれ変わった驚きは、当時の子供たちの心を鷲掴みにした。

一方で操作性70点は、独特の重量感とジャンプのクセを物語っている。壁登りや梯子の操作には、確かに慣れが必要だった。しかし、一度そのリズムを掴めば、これもまた本作だけの味わい深い遊び心地に変わる。音楽78点、ハマり度82点という数字は、癖のある操作性を乗り越えた先に広がる、中毒性の高いゲーム世界の証左と言えるだろう。

あの頃、プレイヤーはただ敵を殴り飛ばしていただけだ。しかし、そのシンプルな衝動が、後のベルトスクロールアクションという大河の最初の一滴となった。今、無数のゲームに流れる「道を進み、敵を倒す」という根源的な楽しみのDNAには、間違いなく『スパルタンX』の血が脈打っている。