マイケル・ジャクソン、ジャッキー・チェン、ビートたけし…「ゲーム化された有名人」プレイバック

ゲーム史を振り返ると、世界的スターや国民的タレントがそのままゲームの主人公や重要キャラクターとして登場した例は枚挙にいとまがない。単なるイメージキャラクターにとどまらず、プレイヤーが“本人を操作する”体験を提供した作品は、発売当時から強い話題性を持ち、いまなお語り草になっている。ここではマイケル・ジャクソンやジャッキー・チェン、明石家さんまを筆頭に、国内外の著名人がゲーム化された歴史を俯瞰する。

世界的スター編──マイケル・ジャクソンとジャッキー・チェン

最も有名な事例のひとつが、セガが1990年にアーケードとメガドライブ向けに発売した『マイケル・ジャクソンズ ムーンウォーカー』だ。マイケル自身が主人公として登場し、華麗なムーンウォークを繰り出して敵を倒し、子どもたちを救出する横スクロールアクションは、世界的に大ヒット。BGMには『スムーズ・クリミナル』などの代表曲が使われ、音楽とアクションの融合を実現した歴史的タイトルである。

アクションスターのジャッキー・チェンも多くの作品に名を刻む。1980年代後半には香港でMSXやPC向けに『ジャッキー・チェンズ・カンフー』が登場。さらに2000年代にはPlayStation用『Jackie Chan Stuntmaster』や映画『スパイ・ネクストドア』のゲーム化など、本人がモーションキャプチャに協力した作品も複数存在する。体術を武器にした映画さながらのスタントアクションは、ファンにとって操作できる“ジャッキー映画”そのものだった。

たけしの挑戦状──“有名人ゲーム”の象徴的問題作

日本では著名人がタイトルにそのまま名を連ねる例がいち早く現れていた。1986年発売のファミコンソフト『たけしの挑戦状』は、ビートたけしが企画原案を務めた伝説的問題作だ。常識を逆手に取る謎解き、理不尽さすれすれの仕掛け、プレイヤーの思い込みを壊す構成。賛否は激しかったが、テレビスターのイメージをそのままゲームの毒気へ落とし込んだ作りは唯一無二で、「本人色が強く反映されたゲーム」の代表例として今なお語られる。良くも悪くも“タレント×ゲーム”が単なるタイアップで終わらないことを証明したタイトルであり、のちのメタ的演出や破天荒なインディ作品へも影響を与えた。

日本のテレビ・音楽界から飛び出したスターたち

1987年発売のファミコンソフト『さんまの名探偵』は、明石家さんまを主人公にしたアドベンチャーゲームで、芸能界を舞台に事件を解決するストーリー。島田紳助や桂文珍、横山やすし、西川のりお、オール阪神・巨人といった実名の芸能人が多数登場し、当時としては画期的な“芸能界ミステリー”として人気を博した。

歌手・女優として活躍した中山美穂も、ディスクシステムで発売された『中山美穂のトキメキハイスクール』でゲーム化。プレイヤーが学園生活を送りながら中山本人と交流する恋愛アドベンチャーで、アイドルゲームの先駆けといえる。1980年代後半のアイドル文化とゲームの融合を象徴するタイトルだ。

同時期には小川範子もPCエンジンCD-ROM用で『No・Ri・Ko』としてゲーム化。写真や音声を駆使したデジタルアイドル体験は、CD-ROM時代の到来を感じさせた。

お笑いから政界まで──意外な顔ぶれ

お笑い芸人のナインティナインは、前出の『さんまの名探偵』をリメイクする形で、PlayStation用『ナイナイの迷探偵』で本人がキャラクターとして登場。推理とコントを融合したコミカルなアドベンチャーはファン向けの色が濃いが、タイアップの枠を超えゲームならではの演出で笑いを届けた。

さらに意外な存在として、元東京都知事で政治学者の舛添要一が挙げられる。1992年発売の『舛添要一 朝までファミコン』は、当時国際政治学者としてテレビ出演も多かった彼を題材にし、ビジネスをテーマにした異色作として一部で話題になった。政治評論家から都知事に至る彼のキャリアを考えれば、異色ながら先見性のある試みだったとも言える。

プロ野球解説者として人気を博した江本孟紀(通称エモやん)を冠したファミコン作『エモやんの10倍プロ野球 セ・リーグ編』(1989年)は、当時の“野球ゲーム=アクション操作”の定番に、解説者視点の配球・采配・データ重視の味付けを強めた意欲作だ。ストレートなスター選手推しではなく“解説者の知見”という有名人の付加価値を前面に出し、テレビ中継の臨場感とゲームの反復性を橋渡しした。スポーツジャンルにおける“本人監修”の有効性を早期に示した点で、実は先駆的な一本である。

アスリート、俳優、音楽家──ジャンルを超えたゲーム化

有名人ゲーム化は上記のスターに限らない。スポーツ分野では、マイケル・ジョーダンが主人公の『Michael Jordan: Chaos in the Windy City』(スーパーファミコン)、タイガー・ウッズを冠した『Tiger Woods PGA Tour』シリーズなどが長く続いた。格闘家ブルース・リーは『Bruce Lee: Quest of the Dragon』(Xbox)や『Jet Li: Rise to Honor』(PS2)で実名主人公として登場し、映画の格闘演出をゲームに移植した。

音楽ではプリンス、アリシア・キーズ、ビヨンセなどがダンスリズム系のタイトルでプレイアブルキャラクターになった例があり、海外ポップカルチャーとの連動は現在の『Fortnite』や『Roblox』のコラボイベントにも連なっている。

ゲームに刻まれたスターの足跡

マイケル・ジャクソン、ジャッキー・チェン、ビートたけし、明石家さんま、中山美穂、小川範子、ナインティナイン、舛添要一──これらの名前は一見ばらばらだが、いずれもその時代のポップカルチャーを体現する存在であり、ゲーム化は単なるメディアミックスではなく、文化の記録そのものだった。ゲームはヒット曲や映画、テレビと並ぶ大衆文化の中心であり続け、スターを永遠にプレイ可能な存在として刻み込んできたのである。

なぜ“有名人ゲーム”は作られるのか──メーカーと本人、それぞれのメリット

有名人を中心に据えたゲームは、単なる話題づくりでは終わらない。メーカーにとっても出演する本人にとっても、具体的で大きな利点が存在する。

まずメーカー側の狙いとして大きいのは初動の強さだ。知名度の高い人物がタイトルに名を連ねるだけで、発売初週から一定の販売が見込める。普段ゲームを購入しない層にもリーチでき、広告や宣伝にかかるコストを作品自体の話題性で補える効果がある。さらに有名人のキャラクター性は、複雑なゲームシステムや新しいジャンルを一般層に分かりやすく伝える役割を果たす。『さんまの名探偵』が推理アドベンチャーをテレビ的な掛け合いに翻訳したように、タレントの個性がゲームの敷居を下げる“翻訳装置”として機能するのだ。

継続的な展開にも利点がある。音楽や映像作品と連動したイベントやダウンロードコンテンツを展開しやすく、発売後も話題を保ちやすい。ライブ配信やSNSが普及した現在は、発売後の追加コンテンツや期間限定コラボを通じてファンの参加を長く引きつけることが可能だ。こうした点は、開発費が年々膨張する中で投資回収を安定させるうえでも重要になる。

一方で本人にとっても、ゲーム出演は単なる副業以上の意味を持つ。何より大きいのは新たなファン層への接触だ。ポスターや映像とは異なり、プレイヤーは数十時間にわたってキャラクターと“操作を通じて”向き合う。これほど長時間かつ能動的な接点は他のメディアでは得がたい。アイドルや俳優は自身の魅力をデジタル上に立体的に残すことができ、アスリートや解説者は考え方やプレースタイルをインタラクティブに体験させることができる。

また、ゲーム化はブランドの長期的な資産化にもつながる。『たけしの挑戦状』のように本人の世界観を強烈に刻み込んだ作品は、単なる一過性のタイアップにとどまらずカルチャー史の一部として記憶される。リマスターや配信サービスによる再販売など、デジタルアーカイブとして半永久的に収益化できる点も大きい。

もちろん注意点もある。本人のイメージとゲーム内容が食い違えば、炎上やブランド毀損のリスクは避けられない。表現上の線引きを契約や監修段階で明確にし、批判や誤解への対応方針をあらかじめ整えておくことが重要だ。また、名前だけを貸した中身の薄い作品ではユーザーの信頼を得られない。『エモやんの10倍プロ野球 セ・リーグ編』や『さんまの名探偵』のように、本人のキャラクターや専門性を具体的なゲーム体験へ落とし込めてこそ価値が生まれる。

総じて言えば、有名人ゲームはメーカーにとって販売初動と説明力を同時に確保する戦略であり、出演する本人にとっては新しいファン接点と長期的なブランド価値を築く機会となる。双方の利害が一致したとき、そのタイトルは単なるコラボを超えて文化的な存在感を持つ。たけし、中山美穂、明石家さんまらが残した足跡は、その有効性を証明し続けている。

(文責 ゲームジャーナリスト・松沢慎太郎/監修 ティム・マクアードル)

画像クレジット

Michael Jackson's Moonwalker/SEGA