二つの長寿タイトルが同時期に幕を下ろす意味
スクウェア・エニックスの『星のドラゴンクエスト』(星ドラ)と『FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS』(FFBE)が、2025年秋にサービスを畳む。星ドラは2025年8月25日に運営から終了告知。FFBEは同日16:00にラピス販売停止を伴う告知を出し、2025年10月31日12:00でサービス終了とした。いずれも2015年配信開始の世代で、約10年という長寿命を全うしたタイトルだ。だが相次ぐ終了は偶然ではない。スマホゲーム市場の構造変化と、運営コスト/期待品質の乖離が限界点に達したことを示している。
成熟市場と獲得コストの急騰
国内モバイル市場は成熟期に入り、成長率は鈍化。新規DLをテレビCMや大型施策で一気に稼ぐ時代は終わり、既存ユーザー同士の奪い合いが常態化している。広告単価は高止まりし、KPIは「新規」よりも「復帰・継続」と課金ARPPUの維持に寄る。長寿タイトルは自然減に抗うため頻繁なイベント更新や復刻の再編成を強いられるが、ユーザー側の期待値は年々上がる。結果として、売上の天井は下がるのに運営工数は上がるという逆風が続く。
中国企業の巨額投資が変えた「ソシャゲの土俵」
テンセント、NetEase、HoYoverseに代表される中国勢は、スマホタイトルに家庭用大作級の開発費を投下し、世界同時運営を前提に3D表現・フルボイス・継続ライブOpsを実装する。開発〜運営の総コストは数十億〜百億円規模に達し、品質基準そのものを引き上げた。プレイヤーの体感は「スマホ=軽い」ではなく「スマホ=大作」。この土俵では、2015年世代の設計を基盤に積み増すだけでは見劣りが出やすい。IPの強さで初速は出ても、継続では最新体験との比較にさらされる。
10年目タイトルのジレンマ
星ドラは国民的IPの間口と協力プレイの手軽さで裾野を広げ、FFBEはドット表現と濃密なシナリオ、海外展開でファンを掴んだ。だが10年の歳月は技術スタックの古さ、アセット構造、ツールチェーンの制約として積み上がる。根本改革(エンジン刷新・UI/UXの全面再設計)はコストが重く、開発速度も落ちる。若年層の新規獲得に必要な「最新UI/カメラワーク/演出密度」を満たすには、ほぼ新作級の投資判断が要求される。その分岐点で「現行運営では満足を供給し続けるのが難しい」という結論に至ったのが今回の決断だ。
長寿ソシャゲの「サ終の作法」
FFBEは有償通貨ラピスの払戻し(資金決済法に基づく)を実施し、2025年10月31日以降にメモリアル版の配信を予定する。サービス終了までイベント更新を続ける方針を明記し、移行期の体験を損なわない配慮も示した。突然の消失を避け、思い出の保存と法令順守の二点を両立するこの「終い方」は、長寿ソシャゲの新しいスタンダードになりつつある。
再編が進むスマホゲーム業界
現在の市場は二極化が進む。巨額投資でグローバルを獲るAAA級スマホ大作と、低コストで高頻度の改善を回すニッチ・インディー寄りの運営。その狭間に位置する「中堅IP×中規模予算」のモデルは、獲得コストと期待品質の板挟みになりやすい。星ドラ/FFBEはまさにその中間層の象徴であり、同規模の長寿タイトルは同じ岐路に立たされる。
日本発タイトルが生き残る条件
必要なのは二つの腹づもりだ。第一に、グローバル前提の投資判断。初期から海外販売・多言語・リージョン運営を組み込み、マーケもクリエイティブも世界基準で設計する。第二に、ビジネスモデルの再発明。ガチャ依存の度合いを下げ、シーズンパス、DLC型、UGC連動、クロスプラットフォーム展開など収益の柱を複線化する。技術面ではレンダリングとツールのモダナイズ、LiveOpsの自動化(A/B、プッシュ、カタログ配信の統合)で運営の固定費を下げ、クリエイティブに資源を再配分することが鍵になる。
この「終わり」は“章の区切り”に過ぎない
星ドラとFFBEの終了は、単なるお知らせではない。2015年以降に隆盛したモバイルRPGの一つの時代が終わり、次の章に移る合図だ。強いIPでも漫然と延命せず、体験の刷新か品位ある撤退かを選ぶ——成熟産業の健全な姿でもある。日本発のゲーム企業が再び主役に返り咲く余地はある。だがそれは、過去の成功方程式に寄りかからず、世界市場と同じリングで戦う覚悟を固めたときに初めて見えてくる。
(ゲームジャーナリスト・松沢慎太郎)
サービス終了情報
- 星のドラゴンクエスト:2025年10月31日にサービス終了
- FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS:2025年10月31日にサービス終了